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マーケティングにおけるSTP分析の本質③ ポジショニング

2026年5月6日

医薬マーケティングLab編集部
2026年5月6日読了時間 5分

「マーケティングにおけるSTP分析の本質」シリーズの第3回目として、今回はSTPの最終ステップであるポジショニング(Positioningについて考えてみたいと思います。

一般的には「市場における自社製品の位置づけを明確にすること」と定義されますが、実務で考えると、それだけでは少し足りないような気がします。むしろ重要なのは、 「顧客の心の中における位置づけを明確にすること」 です。例えば、ある製品が「効果発現が速い」という特長を持っていて、企業がそれを訴求していても、顧客がそれを正しく認識していなければ意味がありません。つまり、企業が何を語るか、ではなく、「医師や患者がどう認識するか」。それが処方の意思決定を左右します。これがポイントです。

 

医療用医薬品は、当然ながら、科学的エビデンスに基づく差別化が求められます。一般消費材でみられるように、ほぼ同様の成分の製品をイメージ戦略で差別化する手法であってはいけません。科学的エビデンスを基に、競合との相対的な位置を設定し、その上で、それが顧客である医師と患者にとって、ベネフィットをもたらすか、その具体的な価値を示す事が重要です。

ポジショニングを明確にする。これが、それ以降のメッセージ作成、プロモーション活動に一貫性をもたらし、製品価値の最大化の実現に繋がります。

マーケターとしての真価が問われるところです。さて、これから具体的な方法をみていきましょう。

1.顧客ベネフィットを中心に据える

前述のように、ポジショニングで重要なのは、「自社がどのように位置づけるか」ではなく、「顧客がどのように認識するか」です。そして、そのポジショニングが顧客(医師や患者)にとって、どのような具体的価値を提供するのかを明確に伝えて認識してもらう、ここまで踏み込んで考えましょう。

この認識が、製品選択や処方の意思決定に直接的な影響をあたえます。科学的エビデンスを基に、医師や患者にとっての「具体的な価値(ベネフィット)」を明確にしましょう。

ベネフィットは主に、機能的ベネフィット(臨床上の利点)と 情緒的ベネフィット(心理的・生活上の価値)に分けられます。マーケターとしては、ついつい機能的ベネフィットに目が行きがちですが、Patient Centricが重要な価値観として認識される中で、情緒的ベネフィットを訴求する重要性は高まっています。

さて、ここでは、変形性膝関節症の治療薬(仮想の薬剤)を例に、機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットを考えてみましょう。

 

変形性膝関節症の治療薬のケース(仮想の薬剤例)

この薬剤が、「膝の痛みを改善するが、その後の荷重運動による膝関節機能に悪影響を与えない」特性を持つとします。こうした特性は、もちろんそのまま伝えても先生方の理解を得ることは可能です。ただ、さらにもう一歩踏み込んで「どんな価値につながるのか」までを伝える事が重要です。

それが薬剤を実際に使うイメージに繋がります。薬剤特性を価値に翻訳する作業とも言えます。

·    機能的ベネフィット

o 「投薬による膝の疼痛緩和後の荷重運動実施が、膝関節の器質的な障害に繋がらず、関節機能の保持が可能である」

o 「疼痛の緩和が、荷重運動による膝関節の悪化に繋がらないため、変形性膝関節症に対する運動療法のみならず、他の疾患に対する運動療法(例:循環器系疾患、糖尿病、肥満の管理)も継続しやすくなる」

·    情緒的ベネフィット

o  「痛みの不安からの解放と、荷重運動(ウォーキングなど)による膝の状態の悪化というジレンマの解消」

o  QOL向上、活動的な老後、孫との外出や旅行など具体的な生活価値の回復」

薬剤特性を価値に翻訳する。この整理を改めて行うことで、医師は「どの患者に使うべき薬か」を具体的に想起でき、患者にとっての価値も明瞭になります。ポジショニングが生きてくるのです。

 

2.ポジショニングマップを賢く使う

自社と競合の位置関係を整理、可視化するうえで、「ポジショニングマップ」はやはり有効なツールと言えます。多くの読者のみなさんも普段から見慣れていると思いますが、一般的には2軸で整理することが多く、以下の図の通り、医薬品の場合は「有効性」と「安全性」が、その軸となるケースが多いと思います。

有効性と安全性と軸としたポジショニングマップ例
もちろん、理想を言えば、四象限の右上(高有効性かつ高安全性)に位置づけられるのが望ましいのは間違いありません。ただ、現実的には、そんなに都合よく自社製品が右上に配置される事は多くないといえるでしょう。また、以下の理由から、医療用医薬品の製品ポジショニング自体が、そう簡単なものではないということもお分かりいただけると思います。

医療用医薬品の製品ポジショニングが容易でない理由

1.
製品の直接比較(Head to Head試験)の実施数が少ない。

2.有効性・安全性を含む比較要素が多岐にわたり、単純な比較が難しい。

3.臨床試験の条件や患者背景によって試験結果(有効性、安全性の数値など)に違いが生じる。

4.同様の作用メカニズムの製品が多数存在する。

5.ガイドラインなどで複数の同効薬剤間の明確な位置づけがされないことが多い。

6.プロモーション内容に対する規制が厳しく、差別化の表現が難しい。

では、どのように進めていくのが良いのでしょう。「有効性」や「安全性」をもう少し分解して捉えることが必要です。例えば有効性であれば、効果発現の速さなのか、持続性なのか、あるいは特定の患者層における効果なのか、といった具合です。

さらに重要なことは何でしょうか。そう、それらの指標が医師や患者にとってどんな意味を持つのか、という点です。ここが曖昧なままだと、マップ上の位置づけはできても、実際の使い分けにはなかなか繋がりません。

その意味でも、医師や患者への調査を含めたマーケティングリサーチは欠かせません。こうした情報をもとに整理していくと、自社製品がどのように認識されているのか、競合と比べてどのあたりに位置しているのかが、少しずつ客観的に見えてきます。

 

下の図はリサーチ結果の一例です。グラフの横軸にはこの薬効の製品群に関連のある特徴、縦軸には、これらの特徴に対する医師の重視度と各製品の評価の度合いが示されています。このように、医師による重視度と各製品の評価を確認することで、どの特徴が重要視されているか、また競合品を含めた各製品がどのように評価されているかが視覚的に理解、共有できるようになります。

医師に対するマーケティングリサーチの一例
「薬剤投与の際の重視度と各製品評価」(簡易例)

3.リサーチ結果の理解で重要なこと 「企業が伝えたいこと」と「医師の理解」のギャップを知る

リサーチ結果を理解する上で、重要なことは、これはあくまで「医師の認識ベース」である、という点です。企業側が想定している製品特性と、実際に医師が理解している内容は、当然ながら、一致するとは限りません。読者のみなさんも、リサーチ結果を見て、思った以上に製品特性が伝わっていないということに落胆されたことも少なくないでしょう。

ただ、現実には、医師は自分の理解に基づいて薬剤を選択します。企業側の意図よりも、現場でどう認識されているかの方が重要で、この認識のズレをどう埋めていくかがポイントとなります。リサーチ結果を単なる評価として見るのではなく、「どこがずれているのか」を探る材料として使うことが大切です。

これが、製品としての課題を知ることであり、プロモーション戦略の策定に繋がっていくのです。
また、マーケティングリサーチを通して医師や患者のアンメットニーズを把握することも極めて重要です。医薬品の場合、製品の物質的特性を変更するのは不可能であるため(製品の不可変性)、既に規定された製品特性の中から、医師や患者のアンメットニーズに繋がる特性がないか、ある場合は、それをどう顕在化していき、新たな製品価値として訴求していくのか、という観点での検討が重要となります。

そのためには、医師や患者にとって、何が真のベネフィットに繋がるのかを常に考え抜くことが欠かせません。そう、常に真のベネフィットが何かを考え抜く。それが肝要です。

科学的最新知見や医療トレンドを常に意識し、医師とのディスカッション、マーケティングリサーチの実施、ペルソナの作成、カスタマージャーニーの作成など行き来しながら、少しずつ解像度を上げていかなくてはなりません。

4.ポジショニングステートメントで全社を一枚岩に

さて、最後にポジショニングステートメントについて解説してみましょう。
ポジショニングステートメントとは、製品のポジショニングを具体的な言葉で表現し、その製品が市場でどのように認識されるべきかを明確に定義したものと言えます。このステートメントは製品のブランドアイデンティティとして、その価値や特徴をぶらさずに伝えるための指針として機能します。

ポジショニングステートメントの構成要素はいくつかの類型がありますが、代表的には以下の4要素で構成されます。

 ターゲット(To:誰に向けた製品か)

  1. 製品・サービスのカテゴリー(is the:どの領域の製品か)

  2. 提供価値・ベネフィット(that:何を提供できるのか)

  3. 理由・根拠(Because:なぜそれが言えるのか)

ポジショニングステートメントの構造と参考例
ポジショニングステートメントの例
製品Yは、有効性と安全性のバランスに優れ、長期投与のエビデンスが豊富な、ガイドラインでエビデンスレベルAと評価される●●治療薬である。長期間の安定した疾患コントロールが必要となる●●患者に対して、症状とQOLの改善により、安心でいきいきとした生活をもたらすことができる。

 これらの要素を使って、製品の位置付けと、その価値を明確に文章で表現することで、社内の関係者間での認識のズレを減らすことができます。

また、しっかりと確立されたポジショニングステートメントを持つことは、対外的なコミュニケーションの一貫性にも繋がります。プロモーション活動もこの一貫性を基に、ブレのない実施が可能となります。そして、このことが、顧客に対する信頼の獲得とブランド価値の向上をもたらすと言えるでしょう。

 

まとめ

  • ポジショニングの本質は、「顧客の心の中における位置づけ」を明確にすること。

  • 企業が訴求しても、顧客が正しく認識しないと意味がない。重要なのは「顧客がどう認識するか」

  • 顧客ベネフィット(機能的/情緒的)を中心に置き、薬剤特性を価値に翻訳する。

  • リサーチで重要なことは「企業が伝えたいこと」と「医師の理解」のギャップを知ること。

  • ポジショニングステートメントは製品の価値や特徴をぶらさずに伝えるための指針となる。