お役立ちナレッジ一覧に戻る
Thumbnail
マーケティング最新情報

「定量と定性の"間"を埋める突破口」——医療用医薬品マーケティングにおけるAIインタビューの現在地と未来

2026年4月22日

株式会社社会情報サービス Market Insights本部 Strategic Research & Insights局  牧田 知也
2026年4月22日読了時間 3分

変化の激しい市場環境において、医師や患者のインサイトを深く理解するための定性調査は、これまで以上に有効な手段となっている。一方で、調査にかかる期間とコストや多忙な医師のリクルーティング難航、専門知識を持つモデレーターの確保など、実施にあたってハードルを感じる場面も少なくない。

そこで、近年の新たな手法として登場したものが、「AIを活用したインタビュー」である。本記事では、AIインタビューの仕組みから、ヘルスケア領域におけるマーケティングリサーチでのメリット・限界、そして現場での具体的な活用法までをご紹介する。

AIがインタビュアーとなる定性調査の現在とその仕組み

生成AI技術の目覚ましい進化により、市場調査の分野にも大きな革新が起きている。その一つが、AIが自律的なモデレーターとなり、対象者とテキストや音声で対話を行う「AIインタビュー」システムである。

仕組みとしては、あらかじめ設定したインタビューガイド(確認したい質問項目や必須確認事項)に基づき、AIが対象者に質問を投げかける。対象者の回答内容をAIがリアルタイムに解析し、「なぜそう判断したのか?」「具体的にどのような症例か?」といった深掘り質問(プローブ)を文脈に合わせて自律的に行うのが特徴だ。

特に医療従事者を対象とした調査において画期的なのは、時間と場所の制約から完全に解放される点である。従来のデプスインタビューでは、日中多忙を極める医師のスケジュールを調整することが最大の難関であった。しかし、AIインタビューであれば、事前の日程調整は不要であり、24時間いつでも対象者の都合の良いタイミングでスマートフォンやタブレット、PCから参加可能となる。

また、最新のシステムでは高精度な音声認識機能が搭載されている。対象者は長文をテキスト入力する手間なく、いつものインタビューのように「声」で手軽に回答できるため、参加の心理的ハードルを大きく下げることにつながっている。

従来のデプスインタビューとの違い、AIインタビューのメリットと限界

それでは、人間が行う従来のデプスインタビューと比べ、AIインタビューにはどのような違いがあるのだろうか。現場での実践から見えてきたメリットと限界を整理する。

メリット

1.  リソースと時間の圧倒的な削減による「N数の拡大」

モデレーターのアサインや事前のスケジュール調整が不要なため、短期間でより多くのサンプル数(N数)を確保できる。例えば「特定の薬剤に関する15分程度のインタビューを50人の医師に行う」といった、これまで人的リソースの観点から1ヶ月以上かかっていたプロジェクトを、わずか数日で完了させることも可能である。

2.属人化の解消と均質な調査の実現

ヘルスケア領域におけるリサーチでは、疾患や薬剤特性に関する高度な専門知識が求められるため、対応できる優秀なモデレーターが限られ、属人化しやすいという課題があった。AIを活用することでこのボトルネックを解消し、一定のクオリティを保ちながら複数並行して調査を実施できる。

3.気兼ねのないフラットな回答環境

人間相手ではないため、相手の顔色を伺ったり、体裁を気にしたりすることなく、対象者の本音を引き出しやすいという心理的なメリットも考えられる。

限界と課題

一方で、現段階のAIインタビューには限界も存在する。

まず、実際に検証を行ったところ、AI相手に長時間話すことには強い負担感を感じた。そのため、30分〜1時間以上の長時間のインタビューや、極めて複雑な思考プロセスを紐解くような調査には不向きであり、現状では「515分程度」の特定のテーマに絞った短時間インタビューが現実的だと考えている。

また、医療業界特有の壁として、難解な専門用語の認識エラーや、「有害事象(AE)」への対応が挙げられる。特にAE情報の取得は、依頼元であるメーカーへ所定期間内での報告義務が生じるなど、極めてセンシティブな問題である。特定の情報を過剰に聞き出そうとしたり、AE情報を取得した際の検知・通知ができなかったりする汎用的なAIシステムでは、実務に導入することにはまだ課題が残る。(現状、報告義務を順守するためには人の目でAEを含む回答がないか定期的に確認する必要が生じる)

リサーチ手法としての位置づけと、医療マーケティングへの応用可能性

これらの特徴を踏まえると、現時点でAIインタビューは決して「従来の定性調査を完全に代替する調査手法」ではない。むしろ、定量調査(アンケートの広さ)と定性調査(デプスインタビューの深さ)の""を埋める、「第三の手法」として位置づけるのが適切である。

では、ヘルスケア領域でのマーケティングリサーチにおいて、具体的にどのような活用領域があるのだろうか。実践の中では主に以下の3つのシーンでの活用が有効だと考えている。

1.  特定の行動バリアや使い分け基準の確認

「なぜその薬剤を処方しなかったのか(処方バリア)」「A薬とB薬の使い分けの基準は何か」といった、ピンポイントなテーマでの聴取である。通常の定性調査を実施するほどの予算や時間はないものの、どうしても確認しておきたい事項がある場合に、非常に有効な手段となる。

2.  定性調査前の「プレインタビュー(事前探索調査)」

本格的な対面デプスインタビューを実施する前に、AIインタビューを用いて浅く広く仮説の検証を行う。これにより、「求めるインサイトを言語化できる対象者か」「自社の想定している課題感を持っているか」を事前に見極めることができ、本番調査の質とリクルーティングの効率を飛躍的に高めることができる。

3.  定量調査の補完(自由回答の深掘り)

定量アンケートとAIインタビューを併用するアプローチである。予算の都合で定量か定性のどちらか二者択一になりがちだった調査において、定量調査の自由回答(FA)欄の代わりにAIインタビューを組み込む。「なぜその選択肢を選んだのか」といった背景や理由をAIがクイックに深掘り回収することで、定量データの背後にある「Why」を明らかにする。

結び

AIインタビューは、あらゆる課題を単独で解決できる万能な手法ではなく、目的を明確にして活用すべき強力なツールである。

従来の定量調査・定性調査と戦略的に組み合わせることで、ヘルスケアマーケティングにおける顧客理解の精度とスピードを飛躍的に高める可能性を秘めている。この「第三の手法」をいかに早く自社のマーケティングサイクルに組み込み、仮説検証の高速回転を実現できるかが、今後の競争優位性を左右するのではないだろうか。本記事が、マーケターの皆様の新たなリサーチアプローチの一助となれば幸いである。