「競合品のプロモーションが強化されたため、自社品の売上が低下した」
ブランドプランや会議などで、こんな話を聞くことがありませんか。
一見、何の違和感もない説明のようにも聞こえます。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。
これは「事実」でしょうか?
それとも「解釈」でしょうか?
多くの方も感じられているかもしれませんが、マーケティングの仕事をしていると、この「事実」と「解釈」が混同されているケースにかなり出会います。
そして、この2つを混同してしまうことが、その後の判断や戦略を間違える原因にもなるのです。
今回は、シンプルですがブランドマネージャーの「心得」として、私が大切にしたいと考えている「事実と解釈を分ける」という話をしてみたいと思います。
「空・雨・傘」で考えてみる
「事実」と「解釈」の違いを考えるときに、分かりやすいのが「空・雨・傘」という考え方です。
空 Fact(事実):空が曇っている。
雨 Interpretation(解釈):雨が降りそうだ。
傘 Decision / Strategy(判断・戦略):傘を持って行こう。
「空が曇っている」は、実際に確認できる「事実」ですよね。
一方で、「雨が降りそうだ」。
これは事実でしょうか?
実は違います。「雨が降りそうだ」は、曇っている空を見たあなたの解釈だと言えます。
そして、その解釈をもとに、「傘を持って行こう」という「判断」をしています。
つまり、「事実 → 解釈 → 判断・戦略」という流れです。

私たちは意外と「事実」と「解釈」を混同している
例えば、「MRの訪問回数が減少しており、売上も低下している」
これは、それぞれのデータが確認できていれば「事実」だと言えます。
しかし、「MRの訪問回数が減ったため、売上が低下した」となると、これは「解釈」です。
訪問回数と売上が同時に下がっていたとしても、「訪問回数が減ったから売上が下がった」という因果関係は必ずしも成立するとは言えません。
ところが、実際の業務では、
「競合品のプロモーションが強いから売上が落ちている」
「高齢化が進んでいるから患者数は増える」
「Webコンテンツの閲覧数が増えているから、医師の関心が高まっている」
といった話を、いつの間にか「事実」のように扱ってしまうことがあります。
もちろん、その解釈が正しい可能性はあります。
ただ、大切なのは、解釈することが悪いのではなく、「これは確認された事実なのか、それとも事実から導いた自分たちの解釈なのか」を意識して分けて考えることです。
意識し始めると、人の話も違って聞こえてくる
これはブランドマネジメントに限った話ではありません。
一度、「事実」と「解釈」を意識するようになると、人の話を聞いていても、「今の話は事実なのか、この人の解釈なのかな?」と思うことが増えてきます。
よく聞いてみると、最初の一つか二つだけが事実で、そこから先はその人自身の解釈を延々と話している、ということも少なくありません。
しかも、その解釈を本人が「解釈」と認識しないまま、延々と「事実」であるかのように話している。
「製品のコンセプトが理解されないから売上が上がらない」
「この市場では価格が一番の問題だ」
「このセグメントの医師はデジタルを好まない」
「競合の活動が強いから、うちが伸びない」
こうした話も、「それは何をもってそう言っているのだろう?」と考えてみると、見え方が変わってきます。
事実なのか。
誰かの発言なのか。
複数のデータから導いた仮説なのか。
それとも、その人自身の経験や印象なのか。
こういう視点で人の話を聞くようになると、色々気づくことも多いです。「この人が言っているのは事実なのか、それともこの人なりの解釈なのか」と考え、自分なりに整理して、話を聞き、質問ができるようになります。
時には相手に、「事実」なのか「解釈」なのかを、角が立たないように確認することも必要になることもあるでしょう。
「解釈」を「事実」と思い込むと、「判断・戦略」を間違える
そして、ここがマーケティング的には特に重要です。
私がここまで、「事実」とか「解釈」とか、しつこく言ってきたのは、「空」と「雨」、つまり事実と解釈を混同すると、その先にある「傘=判断・戦略」を間違える可能性があるからです。
これが問題になるといえます。
例えば、
事実:MRの訪問回数が20%減少した。
売上が10%低下した。
ここから、
解釈:「MR訪問回数の減少が売上低下の原因だ」
と考え、
判断・戦略:「MRの訪問回数を増やそう」
となったとします。
でも、本当に売上低下の原因がMRの訪問回数の減少なのでしょうか。
競合品の活動強化や大口施設での使用状況が影響しているかもしれないし、患者数や診療環境に変化があった可能性もあります。もしかすると、MRの訪問「回数」ではなく、面談の「質」の問題かもしれません。
最初の「解釈」を事実だと思い込んでしまうと、その後の議論もすべて、その前提で進んでしまいます。
その結果、間違った判断をしてしまう可能性があります。
「空」を見て、「曇っている」という事実から、「雨が降りそうだ」と解釈し、「傘を持っていこう」と判断した。
ところが、いざ家を出てみたら、雨どころか見事に晴れ上がっていた。
つまり、「空」という事実は正しく見ていても、「雨が降る」という誤った解釈をしてしまえば、「傘」という判断も間違ってしまうということです。
解釈してはいけない、という話ではない
もちろん、マーケティングに「解釈」は不可欠です。
ただ、データという事実を並べるだけでは、戦略は生まれません。
大切なのは、「事実と解釈を混ぜないこと」。そして、自分が今、「事実を話しているのか、解釈を話しているのかを自覚すること」だと思います。
「これは事実です」
「ここからは私の解釈です」
「現時点ではこういう仮説を持っています」
この区別ができるだけでも、議論の質はかなり変わってくると私は考えています。
ブランドマネージャーとして身につけたい「思考のクセ」
ブランドマネージャーは、日々、大量のデータ、調査結果、MRからの情報、医師の声、競合情報などに触れていますよね。
そして、上長や社内の関連部署、時にはグローバルから、さまざまな意見や質問、問い合わせを浴び続ける立場でもあります。
だからこそ、
「それは事実なのか?」
「それとも解釈なのか?」
と考えるクセをつける。
そして、
空:何が起きているのか Fact
雨:そこから何が言えるのか Interpretation
傘:では、どうするのか Decision / Strategy
この順番を意識する。
とてもシンプルなことですが、ブランドマネージャーにとって、とても大切な「思考のクセ」の一つだと思います。
「事実」と「解釈」を分ける。
正しく判断し、より良い戦略をつくるために、まずはここから意識することがとても重要だと、私は考えています。

