医療用医薬品マーケティングの最終的な目的は何でしょうか?単に製品の売上を伸ばすことではありません。適切な情報提供活動を通じて医療用医薬品を医療機関および医師に提供すること、そして、医師を介して患者に処方されることで、患者の疾患治癒および健康回復に寄与することだと言えます。
そして、この目的を達成するために、市場環境、競合の動き、医療制度の変化、さらには医師の診療スタイルや患者層の違いなど、さまざまな要因を踏まえた戦略設計が求められます。
その戦略の中核となるのが「ブランドプラン」です。そして、ブランドプラン策定の第一歩が、環境・市場分析となります。その中でもミクロ環境を整理する代表的なフレームワークが、3C分析です。
環境・市場分析をミクロの視点で行う3C分析とは?
3C分析は、以下の3つの視点からミクロの市場環境を整理する手法です。
• 市場・顧客(Customer)
• 競合(Competitor)
• 自社(Company)
重要なことは、この3つを単独で見るのではなく、相互関係の中で捉えることです。3Cがそれぞれ、どのような影響を及ぼし合っているかという意識をもって実施しましょう。
また、一般的には、以下の順番で分析を実施します。
1. 市場・顧客
2. 競合
3. 自社
なぜなら、最初から「自社」視点で考え始めると、どうしても全体の視点が自社に偏りやすくなってしまうためです。これはよく陥りやすい点です。先に自社製品の強みを整理してしまうと、市場の現実よりも「こうありたい姿」に引っ張られてしまうことがよくあります。
そのため、まずはできる限りフラットな視点で市場を見つめるために、「市場・顧客(Customer)」から分析を進めていきましょう。
医療用医薬品の3C分析

1.市場・顧客(Customer)分析
ここでは、PEST分析の内容を活用し、市場や顧客に影響を与える外的要因を確認します。
まずは、より大きな視点から「そもそもこの市場は今どう動いているのか?」という観点から整理してみましょう。
市場規模は拡大しているのか、それとも成熟・縮小傾向にあるのか?
疾患の認知と治療はどうなっているのか、診療する環境は整っているか?
このような観点から、市場を整理した上で、「顧客」について考えてみましょう。
医療従事者は何に困っているのか?
患者の受診の状況はどうなっているか?
処方動向に変化は出ていないか?
このように、この市場・顧客分析では、
外部環境→顧客の変化→処方や購買行動への影響
という流れで整理すると、次の競合分析や自社分析につなげやすくなります。
2.競合(Competitor)分析
「市場・顧客分析」の情報を基に、その市場・顧客における競合他社や競合製品の状況を分析します。
ここでのコツの一つとして、情報を「結果」と「要因」に分けて整理すると分かりやすくなります。
結果(What happened)
売上
市場シェア
採用施設数 など
要因(Why it happened)
プロモーション活動量
エビデンスの創出、発表
適応追加、剤型追加 など
つまり、市場シェアが10%伸びたという「結果」だけでは、分析は不十分ということです。
なぜ伸びたのか。ディテール回数が増えたのか、ガイドライン改訂が追い風になったのか、あるいは競合製品に安全性懸念が出たのか。
この「要因」の深掘りこそが、次の打ち手を考える材料になります。
競合分析で陥りがちなのは、「競合が強い」という表面的な評価だけで終わってしまうことです。重要なのは、「なぜ強いのか」「どこに弱みがあるのか」を構造的に理解することです。
3.自社(Company)分析
「市場・顧客分析」と「競合分析」を実施したあと、最後に、それらの分析と対比、比較しながら、自社の状況を客観的に評価します。
ここで重要なのは、あくまで客観的に評価することです。実際のところ、社内にいると、自社製品を過大評価、もしくは過少評価してしまうことが起こりがちです。
たとえば、「営業部隊が強力である」という評価も、単に人数が多いという意味なのか、それともターゲット施設への浸透率が高いという意味なのかで、意味合いは大きく変わってきます。
また「製品力がある」という評価も、製品プロファイル上有利なのか、それが実際の処方に繋がっているのか、つまり、市場や競合に対して、その製品力がどういう意味をもたらすのかということを、しっかり押さえなくてはいけません。
重要なのは、市場や競合の現実と並べて考えたときに、
どこが本当の強みなのか
どこが実は思っているほど強くないのか
を具体的に整理することです。
願望や不安ではなく、データや現場の事実をもとに評価できているか。
ここを曖昧にしたままだと、次の打ち手も曖昧になってしまいます。
一度立ち止まり、「本当にそれは優位性と言えるのか?」と問い直す姿勢が、自社分析では欠かせません。
医療用医薬品のマーケティングにおいて、3C分析で検討すべき具体的な項目について、表2にまとめました。
医療用医薬品の3C分析で検討すべき項目例

3C分析の注意点
3C分析を進める上での注意点は、PEST分析と同じく、「事実」と「解釈」をきちんと分けることです。
分析をしているつもりでも、気づかないうちに自分たちの思い込みや期待が入り込んでしまうことがあります。あくまで、「事実」に基づき分析し、恣意的な「解釈」が入らないように注意しましょう。
PEST分析と同様に、3C分析でも、まずは客観的なデータに基づいて整理することが前提になります。ただ、数字だけを追っていても見えてこない部分も少なくありません。既存データだけでなく、営業現場からの声や医師からのフィードバックなど、現場の生の情報も積極的に取り入れていくことも大切です。
「医師が何に困っているのか」「患者背景がどう変化しているのか」といった定性的な情報もあわせて整理しておくことで、机上の分析にとどまらない、より現実に近いミクロ環境の把握ができるはずです。
3C分析の本質
3C分析というと、ブランドプランを作るときだけ使うフレームワーク、という印象を持たれがちです。ですが、実際には、もっと日常的に使える「考え方の軸」と言えます。
市場で課題に直面したとき、「今どこに問題があるのか」という問いに、
市場が変化しているのか
競合に何か新しい動きがあるのか
自社の活動に課題があるのか
と順番に当てはめて考えると、頭の整理がしやすくなります。
製品が伸び悩んだとき、新規参入があったとき、制度が変わったとき。
その都度立ち返るべき思考フレームと言えます。
まとめ
医療用医薬品マーケティングにおける3C分析は、
外部環境を理解し
競合の動きを構造的に捉え
自社の立ち位置を客観視する
ための重要な手法です。
そして何より大切なのは、「机上の分析」で終わらせないことと言えます。
現場の声、医師の反応、患者背景の変化といった生きた情報を取り入れることで、より実践的な分析に繋がるといえます。
3C分析を単なる理論としてではなく、日々の思考習慣として活用すること。それが、より実効性のある医療用医薬品マーケティング戦略につながるのではないでしょうか。
