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マーケティング実践情報

『調査票が命』 マーケターが知っておくべき、リサーチの基本17【第2回】 「調査票バイアス」 〜回答の歪みを生む17の要因〜 (⑥〜⑪)

2026年7月8日

株式会社メディカル・ナレッジ・マネジメント 代表 医薬マーケティングLab 主宰 西森弘造
2026年7月8日読了時間 4分

前回(第1回)では、「調査票が命」という私の昔の上司の言葉を紹介しながら、①〜⑤のバイアスを取り上げました。ダブルバーレルや誘導質問など、いずれも「1つの設問の文章そのものの作り方」に起因する問題が中心でした。

今回は、その続きとなる⑥〜⑪です。ここから少し視点を広げていきます。

これまでは「1問をどう作るか」が焦点でしたが、今回はそこに加えて、「選択肢をどう並べるか」「設問同士をどう組み合わせるか」という、もう一段階広い視点が必要になってきます。1問だけを丁寧にチェックしても気づきにくい、設問と設問の関係性や、選択肢の提示順序に潜むバイアスです。

実際、私自身も現場でチェックする際、1問1問は問題なく見えるのに、いくつかの設問を並べてみると思わぬ偏りが生まれている、というケースに何度も遭遇してきました。今回はそうした「組み合わせ」や「並び」が生み出す厄介なバイアスを、具体例とともに見ていきましょう。

⑥ 選択肢の網羅性・排他性(Non-MECE Categories)

選択肢が漏れていたり、重複しており、MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:相互排他的かつ網羅的)になっていない。

<悪い例>

「製品Cの導入障壁は?」

選択肢:1)副作用、2)注射剤、3)患者拒否、4)説明時間が長い

この選択肢群をよく見ると、レイヤー(階層)が混在しています。「注射剤」という製剤特性、「副作用」という結果、「患者拒否」という反応、「説明時間が長い」という運用上の負担。これらは異なる階層の概念であり、さらに原因と結果が混在しています(「説明時間が長い」のは「患者拒否」が起きやすいことの原因かもしれません)。

<注意点>

選択肢を作る際は、まず「何の軸で分類しているか」を明確にし、その軸の中でMECEになっているかを検証しましょう。原因・結果・特性・反応といったレイヤーが混在していないか、選択肢を書き出した後に一度整理し直すことをお勧めします。

⑦ 二重否定(Double Negatives)

否定形が重なることで、文章が読みにくくなり、誤回答のリスクが高まる現象です。

<悪い例>

「●●療法を選択しないことは適切でないと思いませんか?」

ちょっと声に出して読んでみてください。「選択しない」「適切でない」「思いませんか」と、否定が3回重なっています。これを正しく理解するには、頭の中で否定を一つひとつ打ち消していく作業が必要になり、読解の負荷が一気に高まります。結果として、本来の意見とは逆の選択をしてしまう誤回答が増えてしまうのです。

<注意点>

設問は常に肯定形で、シンプルに書くことが基本です。「●●療法を選択することは適切だと思いますか?」のように、肯定文に書き換えるだけで読解負荷はぐっと下がります。難しい言い回しをひねり出す必要はなく、むしろシンプルが一番です。

⑧ 認知負荷(Cognitive Load)

選択肢が多すぎると、回答者が比較・判断できなくなる現象です。

人が一度に保持・比較できる情報量には、実は限界があります。心理学者ミラー(George A. Miller)が提唱した「マジカルナンバー7±2(The Magical Number 7 ± 2)」という有名な法則があり、短期記憶で同時に処理できる項目数はおおよそ7個前後(5〜9個)だとされています。

(メモ:この「7±2」、心理学を学んだことがある方なら聞き馴染みがあるかもしれません。ただ、これをそのまま選択肢数の上限として当てはめてよいかというと、実は異論もあります。後年の研究では、チャンク化(情報をまとめて扱う工夫)をしない場合、実際に保持できる項目数はもっと少なく、4個前後とする指摘もあるのです。)

実務では「7個」を絶対的な上限と捉えるより、「選択肢が増えるほど比較の精度は急速に落ちる」という方向性の目安として捉えるのが適切だと思います。

なお、この認知負荷の問題は、特にシングルアンサー(単一回答)の設問で深刻になります。シングルアンサーでは、すべての選択肢を一度に頭の中に並べ、互いに比較しながら「最も当てはまる1つ」を選び出す必要があるため、選択肢が増えるほど比較作業の負荷が一気に高まります。

一方、マルチアンサー(複数回答)の場合は、選択肢を一つひとつ「当てはまるか、当てはまらないか」と個別に判定していけば良く、他の選択肢との相対比較は必須ではありません。そのため、同じ選択肢数であっても、マルチアンサーでは認知負荷の問題が比較的小さく済む傾向があります。

<注意点>

特にシングルアンサーの設問では、選択肢数は目安として7個前後、できれば5個程度に抑える設計を意識しましょう。選択肢数の影響が回答の質に直結しやすいため、より慎重に絞り込むことが重要です。それ以上の項目がある場合は、カテゴリーに分けて2段階で聞く、あるいは事前調査で上位項目に絞り込むなどの工夫が有効です。

⑨ 順序バイアス(Order Bias:設問の順序)

前の設問の内容が、後続の設問の回答に影響を与えてしまう現象です。

<悪い例>

Q1. 有効性の評価

Q2. 安全性の評価

Q3. 総合的な評価

有効性・安全性は薬剤を評価するうえで代表的な指標であり、総合評価の前にこの2つを聞く構成自体は、調査票として一見自然に見えます。

しかし、まさにこの「自然さ」が落とし穴です。Q3の直前にQ1・Q2で有効性と安全性を個別に深く考えさせられているため、回答者の頭の中はその2つの観点に強く引っ張られた状態になります。

本来、総合評価にはコストや使用感、競合との比較といった要素も含まれるはずですが、それらは直前に問われていない分、相対的に意識から薄れ、結果として有効性・安全性に偏った総合評価になりやすいのです。

<注意点>

第1回の②で説明したキャリーオーバー効果と似ていますが、こちらは特に「個別評価→総合評価」のような、一見論理的で自然な構成において起きやすい点が特徴です。構成が自然であるほど見過ごされやすいため、注意が必要です。対策としては、総合評価を先に聞いてから個別評価を聞く、あるいは個別評価の設問順序をランダム化するといった方法が考えられます。

⑩ 選択肢順序効果(Response Order Effects)

1つの設問の中で、選択肢が並ぶ「順序」が、選ばれやすさに影響する現象です。

⑨の順序バイアスは「設問同士」の順序によって生じる、内容的な影響でした。これに対して選択肢順序効果は、同じ選択肢でもリストの中での位置によって選ばれやすさが変わる、内容とはまったく無関係な現象です。地味ですが、実はかなり結果を左右します。

例えば、「製品Dを処方しない理由として最も近いものをお選びください」という設問に対する選択肢として、以下の5つがあったとします。

①副作用への懸念 ②薬価 ③ガイドライン上の位置づけ ④患者の希望 ⑤その他

この5つの選択肢、並び順を変えるだけで選択率が変わることがあります。一般的には、

• 紙・Webの自己回答調査:リストの上に書かれた選択肢が選ばれやすい(プライマシー効果)

• 電話・対面調査:読み上げで最後に聞いた選択肢、つまり記憶に新しいものが選ばれやすい(リーセンシー効果)

という傾向が知られています。

<注意点>

選択肢の提示順をランダム化(ローテーション)することで、この効果はほぼ解消できます。最近のWeb調査ツールには、このローテーション機能が標準で備わっていることが多いので、多肢選択の設問では積極的に活用しましょう。

⑪ 黙認バイアス(Acquiescence Bias)

深く考えずに、無意識に肯定方向へ回答してしまう現象です。

<悪い例>

「AIは医療に有効だと思いますか?」

「AI」という言葉は、具体的に何を指すのかが曖昧であるにもかかわらず、「新しくて、何となく良さそうなもの」という漠然とした好印象を持たれやすい言葉です。回答者は、AIが実際にどう使われ、どの程度の精度や根拠があるのかを深く検討する材料を持たないまま、その漠然とした好印象だけに引き寄せられて「とりあえずYes」と答えやすくなります。

第1回で解説した④の社会的望ましさバイアスとも関連しますが、黙認バイアスは「正しそうに見えるから答える」というより、「漠然とした好印象に流されて、深く考えずに同意してしまう」という、より無意識的な反応です。

<注意点>

肯定・否定のどちらにも誘導しないニュートラルな文言を使うこと、また可能であれば賛成・反対の両方の立場を提示したうえで選んでもらう形式にすることが有効です。

第2回まとめ

今回(第2回)では、⑥〜⑪の5つのバイアスを取り上げました。第1回の①〜⑤が「1問単体の作り方」が中心だったのに対し、今回は「選択肢の並べ方」や「設問同士の組み合わせ」といった、もう一段広い視点が必要になるバイアスでした。⑨順序バイアスのように、一見論理的で自然に見える構成ほど見過ごされやすい、という点は特に意識しておきたいポイントです。

次回(第3回・最終回)では⑫〜⑰を取り上げます。専門用語の伝わり方、調査全体の分量や構成、調査主体の見せ方、回答者個人のクセなど、これまでとはまた違った角度からのバイアスが中心になります。これら6つを押さえることで、調査票バイアス17項目すべてが揃うことになります。ぜひ最後までお付き合いください。