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マーケティング実践情報

『調査票が命』 マーケターが知っておくべき、リサーチの基本17【第1回】 「調査票バイアス」 〜回答の歪みを生む17の要因〜(①〜⑤)

2026年6月30日

株式会社メディカル・ナレッジ・マネジメント 代表 医薬マーケティングLab 主宰 西森弘造
2026年6月30日読了時間 3分

あなたが見ている調査結果は、本当に正しいのか。そんな疑問を持ったことはないですか。

実は、調査票の設計次第で回答は簡単に歪みます。どれだけ多くの回答を集めても、調査票そのものに問題があれば、得られる結果は必ずしも実態を正しく反映しません

随分昔になりますが、私が製薬企業のマーケットリサーチ部門に所属していた頃(今から25年ほど前)、若手だった私は、当時の上司から「マーケティングリサーチは調査票が命」だと繰り返し教えられました。

調査票の質は調査結果に直接影響し、調査の成否を左右する最大の要因のひとつだと、私は今も考えています。この考え方は、アンケート調査に限らず、何かを判断する際にできるだけ一次情報に近い事実を確認する姿勢にも通じるものであり、「調査票が命」という言葉は、今でも私の仕事の原点のひとつになっています。

医薬品マーケティングにおいて、医師や患者を対象としたアンケート調査は、製品戦略やプロモーション方針を検討するうえで重要な意思決定材料となります。しかし、調査票の設計にわずかな偏りがあるだけで、回答結果は簡単に歪み、誤った戦略判断につながります。

調査票の作成には、押さえておくべき基本的な「お作法」があります。かつて製薬企業のマーケティング部門で、配属されたばかりの若手マーケターがこの「お作法」を十分に理解しないまま調査を実施しているのを見て、危うさを感じたこともありました。

そこで本シリーズでは、調査票設計の観点から私が重要だと考える17の要因を整理し、3回シリーズで解説していきます。第1回目の今回は、このうち①〜⑤を具体例と注意点とともに紹介します。

調査結果を正しく読み解き、より良い意思決定につなげるために、まずは回答を歪める要因を理解するところから始めていきましょう。

※本連載では、調査票の設計や質問方法によって生じる回答の歪みを総称して「調査票バイアス」と呼びます。

① ダブルバーレル(Double-Barreled)

1つの設問に2つ以上の内容が含まれている。

<悪い例>

「製品Aは患者説明が容易で、患者の受け入れがよい」

「患者説明が容易かどうか」と「患者の受け入れが良いかどうか」は、本来別々に評価すべき軸です。回答者が「説明はしやすいが、受け入れは悪い」と感じていた場合、どちらの印象を優先して回答すればよいか分からず、回答の精度が大きく落ちてしまいます。

<注意点>

1設問1コンセプトを徹底することが基本です。設問を作成したら「これは2つ以上のことを聞いていないか?」を必ずチェックしましょう。

② キャリーオーバー効果(Carryover Effect)

前の質問の影響が次の回答に引き継がれてしまう現象。

<悪い例>

Q1. 最新ガイドラインでの製品Bの位置づけをご存じですか?

Q2. 本剤の評価について教えてください。

Q1でガイドラインの位置づけについて考えさせられた直後にQ2を聞くと、回答者の評価は「本来の率直な評価」ではなく、「直前に思い出したガイドラインの情報」に引っ張られたものになりがちです。

<注意点>

設問の並び順は、内容の独立性を意識して設計する必要があります。特に、評価系の設問の前に特定の情報を想起させる設問を置くのは避けましょう。順序を入れ替える、あるいは設問間にクッションとなる質問を挟むなどの工夫が有効です。

③ 誘導質問(Leading Question)

特定の回答を誘導するような聞き方になっている。

<悪い例>

「患者QOL改善に貢献する製品Aを使いたいと思いますか?」

「患者QOL改善に貢献する」というフレーズが先に置かれることで、回答者は「使いたい」と答えるよう暗に誘導されます。なお、この例は「QOL改善への貢献」と「使用意向」という2つの概念を含んでいる点で、①のダブルバーレル質問の要素も併せ持っています。

<注意点>

設問文に評価的な形容語句や前提を含めないことが鉄則です。ニュートラルな表現に書き換え、「貢献する」「優れた」といった価値判断を含む言葉は排除しましょう。

④ 社会的望ましさバイアス(Social Desirability Bias)

回答者が、本音ではなく「社会的に好ましく見える回答」を選んでしまう現象。

<悪い例>

「患者中心医療を重視していますか?」

「エビデンスを重視して処方していますか?」

医師という立場上、これらの問いに対して「いいえ」と答えることは社会的・職業的に難しく、実際の行動とは関係なく「はい」に偏った回答が集まりやすくなります。

<注意点>

建前ではなく実態を知りたい場合は、直接的な態度を問うのではなく、具体的な行動や直近の処方実績を尋ねる設問に変える、あるいは第三者視点(「同僚の医師は〜だと思いますか」など)を使うといった工夫が有効です。

⑤ 想起バイアス(Recall Bias)

正確に思い出せないことを答えさせてしまい、回答が不正確になる。

<悪い例>

「過去6か月でMRに説明を受けた内容をお知らせください」

人の記憶は時間が経つほど曖昧になり、再構成されます。半年前の説明内容を正確に思い出すことは、ほとんどの人にとって困難です。

<注意点>

想起を求める期間はできるだけ短く設定し(直近1ヶ月など)、可能であれば記録や資料を見ながら回答できる形式にする、もしくは厳密な事実確認ではなく「印象」として尋ねていることを明示するなどの対応が考えられます。

第1回まとめ

さて、第1回目の今回はいかがだったでしょうか。

今回ご紹介した①〜⑤は、いずれも実際の調査票でついやってしまいがちなポイントばかりです。ご自身の調査票を見直す際の参考にしていただければ幸いです。

第2回では調査票バイアスのうち⑥〜⑪を取り上げます。設問単体の作り方だけでなく、「選択肢の提示順序」や「調査票全体の構成」に関わる、より見落としやすい論点へと進んでいきます。より実践的な内容になりますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。