本記事は「医師がAIで情報収集する時代、製薬企業の情報提供の価値はどこへ向かう?」の後編です。
前編では医師の情報収集がAIにシフトしている現状と、情報収集ツールに求められる要素について記しています。後編では、このAI時代に「製薬企業のプロモーションはどう再設計されるべきか?」に焦点をあてて深掘っていきます。
※本稿はニヒンメディア株式会社の調査・医師インタビュー・公開情報に基づく見解を含みます。
Q4. 製薬企業のプロモーションはどう再設計されるべきか?
これからの医師の情報収集は、「コンテンツ」から「体験」へ重心が移ります。従って、製薬企業からの情報提供もその流れに逆らえないと思われます。静的なコンテンツの用意だけでは十分ではありません。今後価値が増すのは、臨床現場で再利用される情報の「部品」を整備し、医師が各自の情報ツール(主にAI)を利用した際に、臨床現場に情報が現れることです。
これに伴い、Pushのためのチャネルの重要性が減り(AIツールはチャネルではなく体験の基盤であることは上記で述べた通りです)、ニーズを理解するためのデータへの投資が中心になります。
医師は疑問を持ったタイミングで、自分の使いやすいチャネルで情報を調べるため、ここを企業がコントロールすることは今後さらに困難になります。
では営業・マーケティングが全く不要になるかというとそうではありません。逆説的に、潜在的には必要だけれども、医師自身が「知らないので、言語化できない」「どう調べたらいいか分からない」問いが重要性を帯びます。そして、これを医師の情報収集の体験・ワークフローに沿った形で提供することがマーケティングの役割となります。つまり、医師の潜在的な疑問や臨床現場でのペインポイントを徹底的に探究し、医師の調べものとシームレスに繋がった情報提供を行う必要があります。
このような未来において、製薬企業の役割はどの様なものになっていくのでしょうか。下記の3つに集約されていくというのが私たちの考えです。
① エビデンスづくり
これからは「コンテンツ」そのものより、その元になるエビデンスが価値の中心になります。AIツールを通して医師が欲しい粒度で情報が届けられる場合、元々作成したコンテンツの形から分断され、そのコントロールは困難です。
他方で、AIも「ない事実」は語れません。また、医師が短い時間でAIの回答を参照していくにあたって、信頼性・出典の透明性は逆説的に重要になっているので、まだ世にないエビデンスをつくり、信頼のある場に置くことは、最も強い差別化になります。
② 顧客ごとの360度データ収集
様々なステークホルダーによって様々なツール・ソースが提供され、医師も個々に調べものをしていく中で、それらを収集して全体的な情報として統合できるプレイヤーは製薬企業以外にいません。サードパーティーが持つ情報がどんどん分断されて、単体での価値が薄れていくからこそ、統合する役割の重要性も増します。
また、医師という顧客は日本に33万人程度しかおらず、他産業に比べて母集団が限定的であることも特徴です。そして、かなり高い精度でバイネームで顧客を捕捉することも可能です。医師の市場が限られているからこそ、N=1カスタマージャーニーの積み上げが重要となり、それにより医師の問いが言語化される前に情報を届けられる精度も増します。
一般的なB2Cビジネスと違い、顧客(33万人の医師)全員のニーズを個別に把握していくことが可能であり、それ自体が競合優位にもなるため、やらない手はありません。かつては創薬の研究力が製薬企業の競争力の源泉でしたが、今はそれに加えて顧客ニーズを捕捉するプラットフォームとしての役割も製薬企業固有の競争力の源泉となっています。
しかも、これは短期的な投資(優秀な営業を雇うなど)により解決する、というものではなく、データと分析基盤の蓄積によって、後発が資金力だけでは埋められない「差異の源泉」となっています(スタートアップ界隈ではこれを城のお堀に例えて「モート」と呼びます)。
③ 体験づくり
多様な医師の情報収集の体験は、もはや1社でつくれるものではなく、多くのパートナーと協業しながら医療全体で作り上げていく必要があります。
従って、インターフェースのデザインという意味での製薬企業の役割の重要性は下がっているように思われます。他方で、外部の各インターフェースにおいて医師がどのように情報を受容しているかを理解し、そこから逆算をする必要があります。
どの入口からでも同じ品質で辿り着けるよう情報をアクセシブルにし、「診療の流れの中で医師が迷わず情報を使えるか」を設計することが重要となります。AIO(生成AIの回答に自社情報が引用されるように対策するマーケティング手法)や外部とのコンテンツパートナーシップはその一例ですし、論文・ガイドラインへの掲載に関しても、最終的にそれらがどのように医師に受容されるのか、オープンソース化しているかなども体験から逆算して効果を推計していく必要が高まっています。
最後に
このように見てくると、大きな変化の中でも「医師が欲しいものを追求する」というマーケティングの本質は変わっていないことにも気づかされます。
しかし、言うは易く行うは難し。「医師が臨床現場で欲しい情報」を高い精度で知ることのできるデータは市場に少ないです。市場調査は仮想の情報しかとれません。現状のサードパーティーデータ(例えばウェビナー参加データ)は医師がどういう意図で情報収集をしているのかまでは追えません。これらに対するポイ活による情報バイアスも見過ごせません。
医師が「臨床現場」で「自ら主導して」疑問を調べる本質的なインサイトが必要であり、それが各AIプラットフォームに急速に蓄積され始めています。
私たちニヒンメディア株式会社もそのような市場の中で、医師が現場で何を調べているのかを最も把握しているプレイヤー(MedGen Japanの累計質問数は30万件と国内最大級)として、処方時の医師の疑問・ペインポイントに関するデータ・インサイトを提供し、「医師のために本質的に価値のある情報提供」を行おうとする製薬企業をサポートします。
最新動向についてより詳細を知りたい、AI時代のプロモーションに新たな一歩を踏み出したい、という製薬企業のご担当者はぜひお気軽にお声がけください。
【ニヒンメディア株式会社の概要】
医師向けの臨床支援AI 「MedGen Japan」、および製薬企業のオムニチャネルマーケティングを実現する医師関心データ・インサイトを提供するヘルステックスタートアップ。創業メンバーは前職ZS Associatesにて10年来、製薬企業のオムニチャネル戦略、デジタル・AI戦略をサポート。
担当者:代表取締役 安藤孝太
